26:1 さて、アブラハムの時代にあった先の飢饉とは別に、この国にまた飢饉が起こった。それでイサクは、ゲラルのペリシテ人の王アビメレクのもとへ行った。

26:2 【主】はイサクに現れて言われた。「エジプトへは下ってはならない。わたしがあなたに告げる地に住みなさい。

26:3 あなたはこの地に寄留しなさい。わたしはあなたとともにいて、あなたを祝福する。あなたとあなたの子孫に、わたしがこれらの国々をすべて与える。こうしてわたしは、あなたの父アブラハムに誓った誓いを果たす。

26:4 そしてわたしは、あなたの子孫を空の星のように増し加え、あなたの子孫に、これらの国々をみな与える。あなたの子孫によって、地のすべての国々は祝福を受けるようになる。

26:5 これは、アブラハムがわたしの声に聞き従い、わたしの命令と掟とおしえを守って、わたしへの務めを果たしたからである。」

26:6 こうしてイサクはゲラルに住んでいたが、

26:7 その土地の人々が彼の妻のことを尋ねた。すると彼は「あれは私の妹です」と答えた。この土地の人々がリベカのことで自分を殺しはしないかと思って、「私の妻です」と言うのを恐れたのであった。彼女が美しかったからである。

26:8 イサクは長くそこに滞在していた。ある日のこと、ペリシテ人の王アビメレクが窓から見下ろしていると、なんと、イサクがその妻リベカを愛撫しているのが見えた。

26:9 アビメレクは、イサクを呼び寄せて言った。「本当のところ、あの女はあなたの妻ではないか。なぜ、あなたは『あれは私の妹です』と言ったのか。」イサクは「彼女のことで殺されはしないかと思ったからです」と答えた。

26:10 アビメレクは言った。「何ということをしてくれたのか。もう少しで、民の一人があなたの妻と寝て、あなたはわれわれに罪責をもたらすところだった。」

26:11 そこでアビメレクは、すべての民に命じて言った。「この人と、この人の妻に触れる者は、必ず殺される。」

26:12 イサクはその地に種を蒔き、その年に百倍の収穫を見た。【主】は彼を祝福された。

26:13 こうして、この人は富み、ますます栄えて、非常に裕福になった。

26:14 彼が羊の群れや牛の群れ、それに多くのしもべを持つようになったので、ペリシテ人は彼をねたんだ。

26:15 それでペリシテ人は、イサクの父アブラハムの時代に父のしもべたちが掘った井戸を、すべてふさいで土で満たした。

26:16 アビメレクはイサクに言った。「さあ、われわれのところから出て行ってほしい。われわれより、はるかに強くなったから。」

26:17 イサクはそこを去り、ゲラルの谷間に天幕を張って、そこに住んだ。

26:18 イサクは、彼の父アブラハムの時代に掘られて、アブラハムの死後にペリシテ人がふさいだ井戸を掘り返した。イサクは、それらに父がつけていた名と同じ名をつけた。

26:19 イサクのしもべたちがその谷間を掘っているとき、そこに湧き水の井戸を見つけた。

26:20 ゲラルの羊飼いたちは「この水はわれわれのものだ」と言って、イサクの羊飼いたちと争った。それで、イサクはその井戸の名をエセクと呼んだ。彼らがイサクと争ったからである。

26:21 しもべたちは、もう一つの井戸を掘った。それについても彼らが争ったので、その名をシテナと呼んだ。

26:22 イサクはそこから移って、もう一つの井戸を掘った。その井戸については争いがなかったので、その名をレホボテと呼んだ。そして彼は言った。「今や、【主】は私たちに広い所を与えて、この地で私たちが増えるようにしてくださった。」

26:23 彼はそこからベエル・シェバに上った。

26:24 【主】はその夜、彼に現れて言われた。「わたしは、あなたの父アブラハムの神である。恐れてはならない。わたしがあなたとともにいるからだ。わたしはあなたを祝福し、あなたの子孫を増し加える。わたしのしもべアブラハムのゆえに。」

26:25 イサクはそこに祭壇を築き、【主】の御名を呼び求めた。彼はそこに天幕を張り、イサクのしもべたちは、そこに井戸を掘った。

26:26 さて、アビメレクがゲラルからイサクのところにやって来た。友人のアフザテと、その軍の長ピコルも一緒であった。

26:27 イサクは彼らに言った。「なぜ、あなたがたは私のところに来たのですか。私を憎んで、自分たちのところから私を追い出したのに。」

26:28 彼らは言った。「私たちは、【主】があなたとともにおられることを確かに見ました。ですから、こう言います。どうか私たちの間で、私たちとあなたとの間で、誓いを立ててください。あなたと盟約を結びたいのです。

26:29 私たちがあなたに手出しをせず、ただ良いことだけをして、平和のうちにあなたを送り出したように、あなたも私たちに害を加えないという盟約です。あなたは今、【主】に祝福されています。」

26:30 そこでイサクは彼らのために宴会を催し、食べたり飲んだりした。

26:31 翌朝早く、両者は互いに誓いを交わした。イサクは彼らを送り出し、彼らは平和のうちに彼のところから去って行った。

26:32 ちょうどその日、イサクのしもべたちが帰って来て、自分たちが掘り当てた井戸のことについて告げた。「私どもは水を見つけました。」

26:33 そこでイサクは、その井戸をシブアと呼んだ。それゆえ、その町の名は、今日に至るまで、ベエル・シェバという。

26:34 エサウは四十歳になって、ヒッタイト人ベエリの娘ユディトと、ヒッタイト人エロンの娘バセマテを妻に迎えた。

 

 

26:35 彼女たちは、イサクとリベカにとって悩みの種となった。

27:1 イサクが年をとり、目がかすんでよく見えなくなったときのことである。彼は上の息子エサウを呼び寄せて、「わが子よ」と言った。すると彼は「はい、ここにおります」と答えた。

27:2 イサクは言った。「見なさい。私は年老いて、いつ死ぬか分からない。

27:3 さあ今、おまえの道具の矢筒と弓を取って野に出て行き、私のために獲物をしとめて来てくれないか。

27:4 そして私のために私の好きなおいしい料理を作り、ここに持って来て、私に食べさせてくれ。私が死ぬ前に、私自ら、おまえを祝福できるように。」

27:5 リベカは、イサクがその子エサウに話しているのを聞いていた。それで、エサウが獲物をしとめて父のところに持って来ようと野に出かけたとき、

27:6 リベカは息子のヤコブに言った。「今私は、父上があなたの兄エサウにこう言っておられるのを聞きました。

27:7 『獲物を捕って来て、私においしい料理を作ってくれ。食べて、死ぬ前に、【主】の前でおまえを祝福しよう。』

27:8 さあ今、子よ、私があなたに命じることを、よく聞きなさい。

27:9 さあ、群れのところに行って、そこから最上の子やぎを二匹取って私のところに来なさい。私はそれで、あなたの父上の好きな、おいしい料理を作りましょう。

27:10 あなたが父上のところに持って行けば、食べて、死ぬ前にあなたを祝福してくださるでしょう。」

27:11 ヤコブは母リベカに言った。「でも、兄さんのエサウは毛深い人なのに、私の肌は滑らかです。

27:12 もしかすると父上は私にさわって、私にからかわれたと思うでしょう。私は祝福どころか、のろいをこの身に招くことになります。」

27:13 母は彼に言った。「子よ、あなたへののろいは私の身にあるように。ただ私の言うことをよく聞いて、行って子やぎを取って来なさい。」

27:14 それでヤコブは行って、取って母のところに持って来た。母は、父の好む、おいしい料理を作った。

27:15 それからリベカは、家の中で自分の手もとにあった、上の息子エサウの衣を取って来て、それを下の息子ヤコブに着せ、

27:16 また、子やぎの毛皮を、彼の両腕と、首の滑らかなところに巻き付けた。

27:17 そうして、自分が作ったおいしい料理とパンを、息子ヤコブの手に渡した。

27:18 ヤコブは父のところに行き、「お父さん」と言った。イサクは「おお。おまえはだれかね、わが子よ」と尋ねた。

27:19 ヤコブは父に、「長男のエサウです。私はお父さんが言われたとおりにしました。どうぞ、起きて座り、私の獲物を召し上がってください。そうして、自ら私を祝福してください」と答えた。

27:20 イサクは、その子に言った。「どうして、こんなに早く見つけることができたのかね、わが子よ。」彼は答えた。「あなたの神、【主】が私のために、そうしてくださったのです。」

27:21 そこでイサクはヤコブに言った。「近くに寄ってくれ。わが子よ。おまえが本当にわが子エサウなのかどうか、私はおまえにさわってみたい。」

27:22 ヤコブが父イサクに近寄ると、イサクは彼にさわり、そして言った。「声はヤコブの声だが、手はエサウの手だ。」

27:23 ヤコブの手が、兄エサウの手のように毛深かったので、イサクには見分けがつかなかった。それでイサクは彼を祝福しようとして、

27:24 「本当におまえは、わが子エサウだね」と言った。するとヤコブは答えた。「そうです。」

27:25 そこでイサクは言った。「私のところに持って来なさい。わが子の獲物を食べたい。そうして私自ら、おまえを祝福しよう。」そこでヤコブが持って来ると、イサクはそれを食べた。またぶどう酒を持って来ると、それも飲んだ。

27:26 父イサクはヤコブに、「近寄って私に口づけしてくれ、わが子よ」と言ったので、

27:27 ヤコブは近づいて、彼に口づけした。イサクはヤコブの衣の香りを嗅ぎ、彼を祝福して言った。「ああ、わが子の香り。【主】が祝福された野の香りのようだ。

27:28 神がおまえに天の露と地の肥沃、豊かな穀物と新しいぶどう酒を与えてくださるように。

27:29 諸国の民がおまえに仕え、もろもろの国民がおまえを伏し拝むように。おまえは兄弟たちの主となり、おまえの母の子がおまえを伏し拝むように。おまえを呪う者がのろわれ、おまえを祝福する者が祝福されるように。」

27:30 イサクがヤコブを祝福し終わり、ヤコブが父イサクの前から出て行くとすぐに、兄のエサウが猟から戻って来た。

27:31 彼もまた、おいしい料理を作って、父のところに持って来た。そして父に言った。「お父さん。起きて、息子の獲物を召し上がってください。あなた自ら、私を祝福してくださるために。」

27:32 父イサクは彼に言った。「だれだね、おまえは。」彼は言った。「私はあなたの子、長男のエサウです。」

27:33 イサクは激しく身震いして言った。「では、いったい、あれはだれだったのか。獲物をしとめて、私のところに持って来たのは。おまえが来る前に、私はみな食べてしまい、彼を祝福してしまった。彼は必ず祝福されるだろう。」

27:34 エサウは父のことばを聞くと、声の限りに激しく泣き叫び、父に言った。「お父さん、私を祝福してください。私も。」

27:35 父は言った。「おまえの弟が来て、だましたのだ。そしておまえへの祝福を奪い取ってしまった。」

27:36 エサウは言った。「あいつの名がヤコブというのも、このためか。二度までも私を押しのけて。私の長子の権利を奪い取り、今また、私への祝福を奪い取った。」また言った。「私のためには、祝福を取っておかれなかったのですか。」

27:37 イサクは答えてエサウに言った。「ああ、私は彼をおまえの主とし、すべての兄弟を彼にしもべとして与えた。また穀物と新しいぶどう酒で彼を養うようにした。わが子よ、おまえのためには、いったい何ができるだろうか。」

27:38 エサウは父に言った。「お父さん、祝福は一つしかないのですか。お父さん、私を祝福してください。私も。」エサウは声をあげて泣いた。

27:39 父イサクは彼に答えた。「見よ。おまえの住む所には地の肥沃がなく、上から天の露もない。

27:40 おまえは自分の剣によって生き、自分の弟に仕えることになる。しかし、おまえが奮い立つなら、おまえは自分の首から彼のくびきを解き捨てるだろう。」

27:41 エサウは、父がヤコブを祝福した祝福のことで、ヤコブを恨んだ。それでエサウは心の中で言った。「父の喪の日も近づいている。そのとき、弟ヤコブを殺してやろう。」

27:42 上の息子エサウの言ったことがリベカに伝えられると、彼女は人を送り、下の息子ヤコブを呼び寄せて言った。「兄さんのエサウが、あなたを殺して鬱憤を晴らそうとしています。

27:43 さあ今、子よ、私の言うことをよく聞きなさい。すぐに立って、ハランへ、私の兄ラバンのところへ逃げなさい。

27:44 兄さんの憤りが収まるまで、おじラバンのところにしばらくとどまっていなさい。

27:45 兄さんの怒りが収まって、あなたが兄さんにしたことを兄さんが忘れたとき、私は人を送って、あなたをそこから呼び戻しましょう。あなたたち二人を一日のうちに失うことなど、どうして私にできるでしょう。」

27:46 リベカはイサクに言った。「私はヒッタイト人の娘たちのことで、生きているのがいやになりました。もしヤコブが、この地の娘たちのうちで、このようなヒッタイト人の娘たちのうちから妻を迎えるとしたら、私は何のために生きることになるのでしょう。」

28:1 イサクはヤコブを呼び寄せ、彼を祝福し、そして彼に命じた。「カナンの娘たちの中から妻を迎えてはならない。

28:2 さあ立って、パダン・アラムの、おまえの母の父ベトエルの家に行き、そこで母の兄ラバンの娘たちの中から妻を迎えなさい。

28:3 全能の神がおまえを祝福し、多くの子を与え、おまえを増やしてくださるように。そして、おまえが多くの民の群れとなるように。

28:4 神はアブラハムの祝福をおまえに、すなわち、おまえと、おまえとともにいるおまえの子孫に与え、神がアブラハムに下さった地、おまえが今寄留しているこの地を継がせてくださるように。」

28:5 こうしてイサクはヤコブを送り出した。彼はパダン・アラムの、ラバンのところに行った。ヤコブとエサウの母リベカの兄、アラム人ベトエルの子ラバンのところである。

28:6 エサウは、イサクがヤコブを祝福したこと、またパダン・アラムから妻を迎えるために彼を送り出したことを知った。イサクが、ヤコブを祝福して送り出したときに、カナンの娘たちから妻を迎えてはならないと命じ、

28:7 ヤコブが、父と母の言うことに聞き従って、パダン・アラムへ行ったことも。

28:8 さらにエサウは、カナンの娘たちを、父イサクが気に入っていないことを知った。

28:9 それでエサウはイシュマエルのところに行き、今いる妻たちのほかに、アブラハムの子イシュマエルの娘で、ネバヨテの妹マハラテを妻として迎えた。

28:10 ヤコブはベエル・シェバを出て、ハランへと向かった。

28:11 彼はある場所にたどり着き、そこで一夜を明かすことにした。ちょうど日が沈んだからである。彼はその場所で石を取って枕にし、その場所で横になった。

28:12 すると彼は夢を見た。見よ、一つのはしごが地に立てられていた。その上の端は天に届き、見よ、神の使いたちが、そのはしごを上り下りしていた。

28:13 そして、見よ、【主】がその上に立って、こう言われた。「わたしは、あなたの父アブラハムの神、イサクの神、【主】である。わたしは、あなたが横たわっているこの地を、あなたとあなたの子孫に与える。

28:14 あなたの子孫は地のちりのように多くなり、あなたは、西へ、東へ、北へ、南へと広がり、地のすべての部族はあなたによって、またあなたの子孫によって祝福される。

28:15 見よ。わたしはあなたとともにいて、あなたがどこへ行っても、あなたを守り、あなたをこの地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを成し遂げるまで、決してあなたを捨てない。」

28:16 ヤコブは眠りから覚めて、言った。「まことに【主】はこの場所におられる。それなのに、私はそれを知らなかった。」

28:17 彼は恐れて言った。「この場所は、なんと恐れ多いところだろう。ここは神の家にほかならない。ここは天の門だ。」

28:18 翌朝早く、ヤコブは自分が枕にした石を取り、それを立てて石の柱とし、柱の頭に油を注いだ。

28:19 そしてその場所の名をベテルと呼んだ。その町の名は、もともとはルズであった。

28:20 ヤコブは誓願を立てた。「神が私とともにおられて、私が行くこの旅路を守り、食べるパンと着る衣を下さり、

28:21 無事に父の家に帰らせてくださるなら、【主】は私の神となり、

 

 

28:22 石の柱として立てたこの石は神の家となります。私は、すべてあなたが私に下さる物の十分の一を必ずあなたに献げます。」

29:1 ヤコブは旅を続けて、東の人々の国へ行った。

29:2 ふと彼が見ると、野に井戸があった。ちょうどその傍らに、三つの羊の群れが伏していた。その井戸から群れに水を飲ませることになっていたからである。その井戸の口の上にある石は大きかった。

29:3 群れがみなそこに集められたら、その石を井戸の口から転がして、羊に水を飲ませ、その石を再び井戸の口の元の場所に戻すことになっていた。

29:4 ヤコブがその人たちに「兄弟たちよ、あなたがたはどこの方ですか」と尋ねると、彼らは「私たちはハランの者です」と答えた。

29:5 それでヤコブが「あなたがたはナホルの子ラバンをご存じですか」と尋ねると、彼らは「よく知っています」と答えた。

29:6 ヤコブは彼らに尋ねた。「その人は元気ですか。」すると彼らは、「元気です。ほら、娘のラケルが羊を連れてやって来ます」と言った。

29:7 ヤコブは言った。「ご覧なさい。日はまだ高いし、群れを集める時間でもありません。羊に水を飲ませて、草を食べさせに戻ってはどうですか。」

29:8 すると彼らは言った。「そうはできません。群れがみな集められて、井戸の口から石を転がすまでは。それから、羊に水を飲ませるのです。」

29:9 ヤコブがまだ彼らと話しているとき、ラケルが父の羊の群れを連れてやって来た。彼女は羊を飼っていたのである。

29:10 ヤコブは、母の兄ラバンの娘ラケルと、母の兄ラバンの羊の群れを見ると、すぐ近寄って行って、井戸の口の上の石を転がし、母の兄ラバンの羊の群れに水を飲ませた。

29:11 そしてヤコブはラケルに口づけし、声をあげて泣いた。

29:12 ヤコブはラケルに、自分は彼女の父の甥であり、リベカの子であることを告げた。彼女は走って行って、父にそのことを告げた。

29:13 ラバンは妹の子ヤコブのことを聞くとすぐ、彼を迎えに走って行って、彼を抱きしめて口づけした。そして彼を自分の家に連れて帰った。ヤコブはラバンに事の次第をすべて話した。

29:14 ラバンは彼に「あなたは本当に私の骨肉だ」と言った。ヤコブは彼のところに一か月滞在した。

29:15 ラバンはヤコブに言った。「あなたが私の親類だからといって、ただで私に仕えることもないだろう。どういう報酬が欲しいのか、言ってもらいたい。」

29:16 ラバンには二人の娘がいた。姉の名はレア、妹の名はラケルであった。

29:17 レアは目が弱々しかったが、ラケルは姿も美しく、顔だちも美しかった。

29:18 ヤコブはラケルを愛していた。それで、「私はあなたの下の娘ラケルのために、七年間あなたにお仕えします」と言った。

29:19 ラバンは、「娘を他人にやるよりは、あなたにやるほうがよい。私のところにとどまっていなさい」と言った。

29:20 ヤコブはラケルのために七年間仕えた。ヤコブは彼女を愛していたので、それもほんの数日のように思われた。

29:21 ヤコブはラバンに言った。「私の妻を下さい。約束の日々が満ちたのですから。彼女のところに入りたいのです。」

29:22 そこでラバンは、その土地の人たちをみな集めて祝宴を催した。

29:23 夕方になって、ラバンは娘のレアをヤコブのところに連れて行ったので、ヤコブは彼女のところに入った。

29:24 ラバンはまた、娘のレアに、自分の女奴隷ジルパを彼女の女奴隷として与えた。

29:25 朝になって、見ると、それはレアであった。それで彼はラバンに言った。「あなたは私に何ということをしたのですか。私はラケルのために、あなたに仕えたのではありませんか。なぜ、私をだましたのですか。」

29:26 ラバンは答えた。「われわれのところでは、上の娘より先に下の娘を嫁がせるようなことはしないのだ。

29:27 この婚礼の一週間を終えなさい。そうすれば、あの娘もあなたにあげよう。その代わり、あなたはもう七年間、私に仕えなければならない。」

29:28 そこで、ヤコブはそのようにした。すなわち、その婚礼の一週間を終えた。それでラバンは、その娘ラケルを彼に妻として与えた。

29:29 ラバンは娘のラケルに、自分の女奴隷ビルハを彼女の女奴隷として与えた。

29:30 ヤコブはこうして、ラケルのところにも入った。ヤコブは、レアよりもラケルを愛していた。それで、もう七年間ラバンに仕えた。

29:31 【主】はレアが嫌われているのを見て、彼女の胎を開かれたが、ラケルは不妊の女であった。

29:32 レアは身ごもって男の子を産み、その子をルベンと名づけた。彼女が、「【主】は私の悩みをご覧になった。今こそ夫は私を愛するでしょう」と言ったからである。

29:33 彼女は再び身ごもって男の子を産み、「【主】は私が嫌われているのを聞いて、この子も私に授けてくださった」と言って、その子をシメオンと名づけた。

29:34 彼女はまた身ごもって男の子を産み、「今度こそ、夫は私に結びつくでしょう。私が彼に三人の子を産んだのだから」と言った。それゆえ、その子の名はレビと呼ばれた。

 

 

29:35 彼女はさらに身ごもって男の子を産み、「今度は、私は【主】をほめたたえます」と言った。それゆえ、彼女はその子をユダと名づけた。その後、彼女は子を産まなくなった。

30:1 ラケルは自分がヤコブに子を産んでいないのを見た。ラケルは姉に嫉妬し、ヤコブに言った。「私に子どもを下さい。でなければ、私は死にます。」

30:2 ヤコブはラケルに怒りを燃やして言った。「私が神に代われるというのか。胎の実をおまえに宿らせないのは神なのだ。」

30:3 彼女は言った。「ここに、私の女奴隷のビルハがいます。彼女のところに入り、彼女が私の膝に子を産むようにしてください。そうすれば、彼女によって私も子を得られるでしょう。」

30:4 ラケルは彼に女奴隷ビルハを妻として与えたので、ヤコブは彼女のところに入った。

30:5 ビルハは身ごもり、ヤコブに男の子を産んだ。

30:6 そこでラケルは、「神は私をかばってくださり、私の声を聞き入れて、私に男の子を与えてくださった」と言った。それゆえ、彼女はその子をダンと名づけた。

30:7 ラケルの女奴隷ビルハは再び身ごもって、ヤコブに二番目の男の子を産んだ。

30:8 そこでラケルは、「私は姉と死に物狂いの争いをして、ついに勝った」と言って、その子をナフタリと名づけた。

30:9 レアは自分が子を産まなくなったのを見て、彼女の女奴隷ジルパをヤコブに妻として与えた。

30:10 レアの女奴隷ジルパはヤコブに男の子を産んだ。

30:11 レアは「幸運が来た」と言って、その子をガドと名づけた。

30:12 レアの女奴隷ジルパはヤコブに二番目の男の子を産んだ。

30:13 レアは、「なんと幸せなことでしょう。女たちは私を幸せ者と言うでしょう」と言って、その子をアシェルと名づけた。

30:14 さて、麦の刈り入れのころ、ルベンは出て行って、野で恋なすびを見つけた。そして、それを母レアのところに持って来た。すると、ラケルはレアに「どうか、あなたの息子の恋なすびを少し私に下さい」と言った。

30:15 レアはラケルに言った。「あなたは私の夫を取っても、まだ足りないのですか。私の息子の恋なすびまで取り上げようとするのですか。」ラケルは答えた。「では、あなたの息子の恋なすびと引き替えに、今夜、あの人にあなたと一緒に寝てもらいます。」

30:16 夕方になって、ヤコブは野から帰って来た。レアは彼を出迎えて言った。「あなたは私のところに来ることになっています。私は、息子の恋なすびで、あなたをようやく手に入れたのですから。」その夜、ヤコブはレアと寝た。

30:17 神はレアの願いを聞かれたので、彼女は身ごもって、ヤコブに五番目の男の子を産んだ。

30:18 そこでレアは、「私が女奴隷を夫に与えたので、神は私に報酬を下さった」と言って、その子をイッサカルと名づけた。

30:19 レアはまた身ごもって、ヤコブに六番目の男の子を産んだ。

30:20 レアは言った。「神は私に良い賜物を下さった。今度こそ夫は私を尊ぶでしょう。彼に六人の子を産んだのですから。」そしてその子をゼブルンと名づけた。

30:21 その後、レアは女の子を産み、その子をディナと名づけた。

30:22 神はラケルに心を留められた。神は彼女の願いを聞き入れて、その胎を開かれた。

30:23 彼女は身ごもって男の子を産み、「神は私の汚名を取り去ってくださった」と言った。

30:24 彼女は、その子をヨセフと名づけ、「【主】が男の子をもう一人、私に加えてくださるように」と言った。

30:25 ラケルがヨセフを産んだころ、ヤコブはラバンに言った。「私を去らせて、故郷の地へ帰らせてください。

30:26 妻たちや子どもたちを私に下さい。彼女たちのために私はあなたに仕えてきました。行かせてください。あなたに仕えた私の働きは、あなたがよくご存じなのですから。」

30:27 ラバンは彼に言った。「私の願いをあなたがかなえてくれるなら──。あなたのおかげで【主】が私を祝福してくださったことを、私は占いで知っている。」

30:28 さらに言った。「あなたの報酬をはっきりと申し出てくれ。私はそれを払おう。」

30:29 ヤコブは彼に言った。「私がどのようにあなたに仕え、また、あなたの家畜が私のもとでどのようであったかは、あなた自身がよくご存じです。

30:30 私が来る前は、あなたの財産はわずかでしたが、増えて多くなりました。私の行く先々で【主】があなたを祝福されたからです。いったい、いつになったら私は自分の家を持てるのですか。」

30:31 彼は言った。「あなたに何をあげようか。」ヤコブは言った。「何も下さるには及びません。もし私に次のことをしてくださるなら、私は再びあなたの群れを飼って守りましょう。

30:32 私は今日、あなたの群れをみな見て回りましょう。その中から、ぶち毛と斑毛の羊をすべて、子羊の中では黒毛のものをすべて、やぎの中では斑毛とぶち毛のものを取り分けて、それらを私の報酬にしてください。

30:33 後であなたが私の報酬を見に来られたとき、私の正しさが証明されるでしょう。やぎの中に、ぶち毛や斑毛でないものや、子羊の中に、黒毛でないものがあれば、それはすべて、私が盗んだことになります。」

30:34 するとラバンは言った。「よろしい。あなたの言うとおりになればよいが。」

30:35 ラバンはその日、縞毛と斑毛の雄やぎと、ぶち毛と斑毛の雌やぎのすべて、すなわち身に白いところのあるもののすべて、それに、黒毛の子羊のすべてを取りのけて、息子たちの手に渡した。

30:36 そして、自分とヤコブの間に三日分の距離をおいた。ヤコブはラバンの残りの群れを飼った。

30:37 ヤコブは、ポプラや、アーモンドや、すずかけの木の若枝を取り、それらの白い筋の皮を?いで、若枝の白いところをむき出しにし、

30:38 皮を?いだ枝を、群れが水を飲みに来る水溜めの水ぶねの中に、群れと差し向かいに置いた。それで群れのやぎたちは、水を飲みに来たとき、さかりがついた。

30:39 こうして羊ややぎは枝の前で交尾し、縞毛、ぶち毛、斑毛のものを産んだ。

30:40 ヤコブは羊を分けて、その群れが、ラバンの群れの縞毛のものとすべての黒毛のものに、向かい合わせになるようにした。彼は自分の群れを別にまとめておき、ラバンの群れと一緒にしなかった。

30:41 また、強い群れにさかりがついたときに、ヤコブはいつも、あの枝を水ぶねの中に、群れの目の前になるように置き、枝のところで交尾させた。

30:42 しかし、弱い群れのときには、それを置かなかった。こうして、弱いものはラバンのものとなり、強いものはヤコブのものとなった。

 

30:43 このようにして、この人は大いに富み、多くの群れと、男女の奴隷、それにらくだとろばを持つようになった。